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稲田隆紀の映画紹介

面白味はひとつではない――

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『ダーク・シャドウ』は、ティム・バートンこそがジョニー・デップの魅力をもっとも活かせる存在であることを得心させるブラック・ファンタジー。

 ジョニー・デップが日本で動員力のあるスターのひとりであることは『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズや『チャーリーとチョコレート工場』などで証明されている。
 ただ、子細にみていくと、彼の作品でヒットを飛ばしているのはカリカチュアされたキャラクターを演じているものが多いことに気づく。たとえば『パブリック・エネミーズ』のようなストレートなヒーローよりも、主演でなくとも『アリス・イン・ワンダーランド』の帽子屋のようなアニメチックなキャラクターが好まれる。俳優はさまざまな役柄に挑戦したい気持ちがあるものだから、本人としては忸怩たる思いがあるかもしれない。
 実際、デップ自身も、単なるハリウッドのスターでいることに潔しとせずに、作家性の強い作品に挑戦してはその演技力を証明してきた。だが、とりわけ日本の観客はそうした作品よりも弾けたポップなデップを好んでいるようだ。
 こうしたデップに対する特殊な嗜好の責任の一端は、ティム・バートンにあるといっても過言ではない。バートンと組んでユーモアとペーソスを披露し、一躍、出世作となった『シザーハンズ』で強烈な印象を与え、『エド・ウッド』に『スリーピーホロウ』、上記の『アリス…』や『チャーリー…』、そしてミュージカルの『スウィニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』まで、どれも誇張されたアニメーション的なキャラクターばかりだ。それが強烈であったことから、いっそうデップのイメージがポップな方向性に固定化したというべきか。『ダーク・シャドウ』は日本の観客が期待するそうしたデップのイメージにぴったりとはまった作品となっている。演じるバーナバス・コリンズはユーモラスでペーソスたっぷり、しかもロマンチックな要素を有するキャラクターなのだ。

ダーク・シャドウ
『ダーク・シャドウ』
5月19日(土)より、丸の内ルーブルほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
[コピーライト] 2012 Warner Bros. Entertainment. All rights reserved.

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『ファミリー・ツリー』は、ジョージ・クルーニーが等身大の中年男を魅力的に演じて、心に残るヒューマン・コメディに仕上がった。

 ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門の作品賞と主演男優賞に輝き、第84回アカデミー賞では作品・監督・主演男優・脚色・編集の5部門にノミネートされて脚色賞を手中に収めた、おかしくもほろ苦い人間喜劇。
 なによりアメリカ映画界で最もセクシーな男優と呼び声高いジョージ・クルーニーが、気のいいために周囲から軽んじられる中年男を好もしく演じきる。クルーニーとっては初めての役どころだが、年輪を重ねてペーソスが付加されたことから共感度の高いパフォーマンスをみせている。監督は、『アバウト・シュミット』でジャック・ニコルソンに、孤独に惑う等身大の老人を演じさせたアレクサンダー・ペイン。続く『サイドウェイ』では冴えない中年男に焦点を当てていたが、いずれも人生の岐路に立たされた男の行動をリアルかつユーモラスに描き出してきた。本作は、風光明媚なハワイを舞台に、華のあるクルーニーが人生の悲哀に直面させられる展開。希望のある結末が好感をもって迎えられ、アメリカでは批評家が絶賛、観客からも支持されている。

ファミリー・ツリー
『ファミリー・ツリー』
5月18日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
[コピーライト]2011 Twentieth Century Fox

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『幸せの教室』は、監督・主演を果たした、トム・ハンクスの人柄がうかがえる、素直で爽やかなロマンチック・コメディ。

『フィラデルフィア』と『フォレスト・ガンプ/一期一会』の2本で、史上二人目のアカデミー主演男優賞2年連続受賞という栄誉を手にしたことが、トム・ハンクスの持ち味を変えてしまったような気がする。それまではおっちょこちょいで軽はずみなところもあるが、憎めない根っからの善人といったイメージだったが、受賞以降はヒロイックなキャラクターが激増。同じ善人でも、責任感が強かったり、賢かったり、強かったり、立派だったりする。誠実さを内包しているハンクスであれば、そうしたキャラクターをこなせることはいうまでもない。わずかに声の出演をした『トイ・ストーリー』3部作のウッディが昔のイメージを継承していたが、実写でもたまにはハンクスの、人間臭くて軽妙な貌をみたくなる。
 多分、本人もそう考えていたのだろう。本作で1996年の以来の劇場用映画の監督をするにあたって、俳優ハンクスの本来の持ち味をもっとも発揮できる題材を選んでみせた。どこにでもいそうな等身大の男のストレートなロマンチック・コメディ。どんな存在でも努力をすれば幸せを手にできるという、今の世知辛い世の中にひと時の希望を与えるストーリーに仕上げている。しかも相手役は『エリン・ブロコビッチ』でアカデミー主演女優賞を手にしたジュリア・ロバーツ。ゴージャスなイメージの女優を得て、ハンクスの演出とパフォーマンスはさらに軽快さを加速している。

幸せの教室
『幸せの教室』
5月11日(金)より、TOHOシネマズスカラ座ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
[コピーライト] 2011 Vendome International, LLC. All Rights Reserved.

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『わが母の記』は母と息子の絆にひそむ棘を昭和の家族のなかに浮かび上がらせた、原田真人監督による心を揺さぶられる秀作。

 昨年の第35回モントリオール世界映画祭において審査員特別グランプリを獲得し、釜山やハワイなど各国の映画祭で上映されて話題になった日本映画の登場だ。「氷壁」や「天平の甍」、「敦煌」などで知られる作家、井上靖の自伝的小説「わが母の記~花の下・月の光・雪の面~」をもとに、『KAMIKAZE TAXI』、『金融腐蝕列島・呪縛』、『クライマーズ・ハイ』など、多彩な作品歴を誇る原田真人が脚色、監督。小説家・伊上洪作とその家族に焦点を当て、昭和34年から10年以上に及ぶ軌跡が描かれる。
 伊上が実母に抱き続ける恨みにも似た感情を軸に、家族のクロニクルが綴られていく展開だが、会話のテンポ、描写の端々に往年の松竹映画の雰囲気が立ち上る。時代背景とあいまって、画面をみていくうちに懐かしさと切なさに包まれる。ひさしぶりに、本格的な家族映画に出会った喜びが湧きあがってくる。主演の役所広司はもちろん、樹木希林の圧倒的なうまさに驚嘆し、宮崎あおいの存在感に拍手を送りたくなる。なるほど、海外で評価されたのも分かる。深みのある画面に、家族ゆえに生じる情と葛藤がていねいに描かれ、普遍的な感動にいざなう。まこと日本映画ならではの世界なのだ。

わが母の記
『わが母の記』
4月28日(土)より、全国ロードショー
配給:松竹
[コピーライト]2012「わが母の記」製作委員会

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『裏切りのサーカス』は、英国傑作スパイ小説を完全映画化した、リアルさ、緊迫感、伏線の張り方も申し分のないおとなのサスペンス。

 第84回アカデミー賞において、ゲイリー・オールドマンの主演男優賞、脚色賞、作曲賞にノミネートされたことで注目されていた、いかにも英国的なスパイ映画の登場だ。
 日本でも知られている、ジョン・ル・カレが1974年に発表した傑作小説「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の映画化。ル・カレの小説は1965年の『寒い国から帰ったスパイ』を皮切りに、『鏡の国の戦争』(1968)、『リトル・ドラマー・ガール』(1984)、『ロシア・ハウス』(1990)、『テイラー・オブ・パナマ』(2001)、『ナイロビの蜂』(2005)など、これまでもたびたび公開されてきたが、本作の面白さは群を抜いている。
 熾烈な情報戦に身を置き、誰が敵かも分からない。自国の組織内にあっても決して気を許すことができない状況のなかで、懸命に生き抜くスパイたちの姿を緊迫感を持って映像化していく。傑作小説を巧みに脚色したブリジット・オコナーとピーター・ストローハンの手腕、そして『ぼくのエリ 200歳の少女』で世界的な注目を浴びた、スウェーデン出身のトーマス・アルフレッドソンの無駄をそぎ落とした演出が光る。
 もちろん主演のオールドマンのすばらしい演技は圧巻だし、コリン・ファース、トム・ハーディ、ジョン・ハート、マーク・ストロング、トビー・ジョーンズ、ベネディクト・カンバーパッチ、キアラン・ハインズなど、英国で活動する個性的な演技派の競演もみごと。ディテールにこだわり、セリフのひとつひとつ、仕草にまで神経が行き届いている。ひとときも画面から目が離せない面白さ。これぞ、“はまる映画”である。

裏切りのサーカス
『裏切りのサーカス』
4月21日(土)より、 TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給:ギャガ GAGA★
Jack English [コピーライト] 2010 StudioCanal SA

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『バトルシップ』はエイリアンと連合艦隊との戦いを緊迫した語り口で描き出す、戦争映画好きには応えられないバトル・アクション。

 CGやVFXが進歩したおかげで、『トランスフォーマー』シリーズや『G.I.ジョー』といった懐かしい玩具キャラクターを実写で映像化することが可能となり、いずれも大ヒットを飛ばしている。いずれの作品も玩具を販売しているメーカー、ハズブロ社が製作参加して相乗効果を図っているが、本作では初めてキャラクターから離れ、同名の海戦ゲームをもとにした作品に名を連ねている。もっとも飛来するエイリアンの宇宙船、攻撃機、エイリアンは、なるほどハズブロ社のキャラクターっぽく、玩具として入手したくなる形状だ。
『RED/レッド』などで知られるエリック&ジョンのホーバー兄弟が、戦闘の連続から主人公がリーダーとして成長していく展開の脚本を構築。快作『キングダム/見えざる敵』を手がけたピーター・バーグが緊迫感を途切らさない演出を披露している。主演のテイラー・キッチュ、浅野忠信の顔合わせというのも話題だし、戦闘シーンのスケールの大きさは圧倒的。ユニバーサル映画100周年記念作品というのも、なるほど納得できる。

バトルシップ
『バトルシップ』
4月13日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:東宝東和
[コピーライト] 2012 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved.

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『アーティスト』は、セリフに頼らずに物語を伝えるという映画の原点に立ち返った、思わず胸が熱くなるラブストーリー。

 先日、行なわれた第84回アカデミー賞で作品・監督・主演男優・衣装デザイン・作曲の5部門を手中に収めた、現在もっとも旬な輝きをもった作品の登場だ。フランス映画が作品賞を獲得したのは、アカデミー賞史上初めてのことだ。昨年のカンヌ国際映画祭でも主演男優賞に輝くなど、その存在は話題になっていたが、ここまでアメリカ映画界が受け入れるとは思わなかった。それもこれも無声映画というスタイルを採用したため。ことばの壁がなくなった上に、外国語映画賞ではなく作品賞にノミネートされたのだから、製作者としてはしてやったりの心境だろう。
 もちろん、白黒・サイレントであっても、この作品は単なる懐古趣味だけではない。シンプルなストーリーをあえて映画創成期の手法で語り、その魅力を謳いあげることで、新しいものにすぐ飛びつく映画界に対して疑問符を投げかける。本作と競っていたマーティン・スコセッシの『ヒューゴの不思議な発明』が最新の3D技法を採用していたのと好対照だ。
 監督のミシェル・アザナヴィシウスは、俳優として出演した『ディディエ』が公開されているが、監督作は『OSS117 私が愛したカフェオーレ』(DVDで発売)をはじめとして日本では劇場未公開ばかり。本作を契機にアメリカ映画界からも招きがくることは間違いない。アザナヴィシウスにとっては、本国フランスはともかく、世界的には無名の存在から一躍、注目の的になるという、シンデレラストーリー。いかにもアメリカ的な展開ではある。

アーティスト
「アーティスト」
4月7日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
配給:ギャガ GAGA★
[コピーライト] La Petite Reine - Studio 37 - La Classe Americaine - JD Prod - France 3 Cinema - Jouror Productions - uFilm

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『ヘルプ 心をつなぐストーリー』は、差別の意識が強く残る1960年代前半のアメリカ南部で、勇気と友情を培った素敵な女性たちに焦点を当てた快作。

 第84回アカデミー賞で、ヴィオラ・デイヴィスが主演女優賞、オクタヴィア・スペンサーとジェシカ・チャスティンが助演女優賞にノミネートされ、作品賞の候補にもなった話題作の登場だ。アカデミー賞の結果はスペンサーの受賞に留まったが、本作品をみるとメリル・ストリープに匹敵する演技力を披露した、デイヴィスを称えたくなる。
 新人でありながらベストセラー・リスト1位となり、103週連続でベストセラー・チャートにランクインしたキャスリン・ストケットの同名小説を原作に、これが長編映画2作目となるテート・テイラーが脚色・監督。全米では公開されるや、初登場は興行収入ランキングの2位だったが、じわじわと口コミが広がって翌週から3週間連続で第1位を飾り、1億7千万ドルに近い興行収入をたたきだした。なにより勇気を持って生きる女性を爽やかに描いた点が高く評価されたのだという。まこと、声高なメッセージ色はまったくなく、ユーモアと哀しみを散りばめながら、エンターテインメントとして等身大の女性たちの軌跡を軽やかに描いている。それゆえに、本作は説得力をもって、みる者を感動させるのだ。

ヘルプ 心をつなぐストーリー
『ヘルプ 心をつなぐストーリー』
3月31日(土)より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
[コピーライト]DreamWorks II Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

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『ドライヴ』は、ライアン・ゴスリングのただならぬ魅力が際立つ、クールでスタイリッシュなクライム・サスペンス。

 第64回カンヌ国際映画祭では監督賞に輝き、そのクオリティをアメリカのメディアも絶賛したフィルムノワールの登場だ。ニューオリンズの探偵ルー・グリフィンを主人公にしたシリーズなどで知られる作家、ジェイムズ・サリスの同名小説をもとに、デンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフンがスタイリッシュなクライム・サスペンスに仕上げている。ロサンゼルスの昼と夜、表と裏を背景に、ひとりの天才ドライバーの軌跡をしびれるような映像センスで綴ってみせる。現在、ラース・フォン・トリアーに匹敵するほどの注目度を誇るというのも頷ける。ウィンディング・レフンの力量を得心できる仕上がりとなっている。
 なによりも主演を務めるライアン・ゴスリングがいい。寡黙で表情を崩さず、行動を起こせば迅速、必要とあらば暴力も辞さない。それでいながら心の奥に情を秘めているという、惚れ惚れするようなヒーロー役、これが素晴らしく決まっているのだ。

ドライヴ
『ドライヴ』
3月31日(土)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
[コピーライト]2011 Drive Film Holdings, LLC. All rights reserved.

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『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』は、メリル・ストリープの成り切りぶりに舌を巻く、英国を牽引した女性首相の感動の軌跡。

 現地時間2月26日に開催された第84回アカデミー賞授賞式では、フランス映画の『アーティスト』が作品・監督・主演男優・作曲・衣装デザインの5部門に輝いて話題をまいたが、いちばん嬉しい驚きはメリル・ストリープの2度目の主演女優賞の受賞だった。
 1977年に『ジュリア』で映画デビューして以来、アカデミー賞にノミネーションされること17回。誰もが俳優としての実力を認め、尊敬する存在でありながら、1979年の『クレイマー、クレイマー』で助演女優賞、1982年の『ソフィーの選択』で主演女優賞を獲得した後は、ノミネーションされるだけに留まっていた。だから29年を経ての受賞は意外な気さえしたわけだが、本作をみれば受賞には納得がいく。容姿のまったく違うサッチャーにここまでなり切り、感動をもたらす。ストリープの演技には圧倒されるばかりだ。
 それにしても、現存する有名人のありのままの姿を映像化しようという企画自体、まことにリスキーだ。『クィーン』や『英国王のスピーチ』をはじめ、こうした実録伝記映画を得意にする英国映画界であっても、下手をすればクレームだけでは済まない。脚本を書いたアビ・モーガンは、2008年にサッチャーの娘が母親の認知症を認めたことに衝撃を受けて、執筆を決意したという。現在公開中の『SHAME‐シェイム‐』で熱い注目を浴びているモーガンは、“鉄の女”といわれたサッチャーの人間性に深く入り込んで、血肉の通った女性の感動的な一代記に仕上げている。

マーガレット サッチャー.jpg
『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
3月16日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:ギャガ GAGA★
[コピーライト]2011 Pathe Productions Limited. Channel Four Television Corporation and The British Film Institute

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